マウストなどのげっ歯類の免疫不全動物をレシピエントとして利用し,毛包を再生あるいは 再構成させる基礎研究は以前から行われています。

さまざまなアプローチがなされていますが、あいにくですが,これらの成果をヒトに応用した例が現在のところありません。

その理由には人種差などのさまざまな要因が考え られ,細胞など,間葉系細胞の再構成の能力にも違いがあると思われるが,いまだ完全に解明されていません。

ヒトへの応用を考えた場合,自家、または、他家という選択が考えられます。植毛施術の試行錯誤の過程で,千本単位の多数の採毛を移植する植毛施術の場合,他家移植では激しい炎症や拒絶反応が起こり,移植した毛包が生着しません。

そのため、細胞移植による治療も,自家細胞を 用いることを前提として臨床研究が計画されています。これまでに,いくつかの研究グループがヒトの自家細胞を単離,培養した毛包治療を試みていますが,いずれも成功していません。

ヒト毛乳頭とマウス上皮細胞の組み合わせで毛包新生したという研究報告がありますが,ヒト毛包での試験までは示されていないません。

細胞を用いて脱毛症を治療する臨床試験は欧米が先行しており,2つのベンチャー企業が第Ⅱ相 試験まで進行しています。

最初にヒト細胞を使っ た治験を実施したインターサイテックス社は安全性の初期試験の後,2008年に培養細胞を注入するプロトコールで第Ⅱ相試験の実施を宣言しましたが,結果は公表されていません。

また,2010~11年 には米国のアデランス社が,真皮から分離した間葉系細胞と上 皮系の組み合わせ,成長因子を添加して活性を高めた自家細胞を移植する治験を実施しましたが,こちらも最終的な結果は公表されていません。

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RSMP vol.6 no.1, 91—99, Jan 2016
ヒト細胞・組織を利用した毛髪再生医療の基礎と臨床応用より抜粋